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東京高等裁判所 昭和56年(行ス)2号 決定 1981年4月03日

抗告人(申立人) 丁慶一

相手方(被申立人) 法務大臣 外一名

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

一  本件抗告の趣旨及び理由は、別紙「即時抗告状」及び「抗告理由書」記載のとおりである。

二  当裁判所の判断

法務大臣が出入国管理令四九条三項に基づき、同令四八条七項の判定に対する異議の申出を棄却する裁決をするためには、所論の裁決諮問委員会の審議を経由することは、法令上要求されているものではなく、また、いわゆる告知と聴聞とを本質的内容とする適正手続の要求するところであるともいえない。そして、東京地方裁判所昭和五四年(行ウ)第七九号退去強制令書発布処分等取消請求事件記録によれば、抗告人が提出を求めている本件文書は、右のような裁決諮問委員会の作成にかかるものであつて、法務大臣が本件裁決をするに当たり、その適正を期するために行政庁内部においてもつぱら自己使用の必要上作成されたものにすぎないものと認められるから、民訴法三一二条三号後段の文書に該当するものとはいえない。

よつて、本件文書提出命令の申立を却下した原決定は相当であつて、本件抗告は理由がないからこれを棄却し、抗告費用の負担について同法九五条、八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 園田治 菊池信男 柴田保幸)

即時抗告状

右抗告人を原告・相手方を被告とする東京地方裁判所昭和五四年(行ウ)第七九号退去強制令書発付処分等取消等請求事件について、原告からなした文書提出命令申立事件(昭和五五年(行ク)第九〇号)に対し、同裁判所は昭和五六年一月二六日「右申立を却下する」旨の決定をなし、該決定は同年同月二七日抗告人に送達されたが、不服であるから即時抗告の申立をする。

抗告の趣旨

原決定を取消す

旨の裁判を求める。

抗告の理由

追つて提出する。

抗告理由書

一 原決定は裁決諮問委員会が法令上の根拠を有しないこと、抗告人が提出を求める同委員会の審議結果を記載した文書は「専ら自己使用のため作成した内部文書」であると判示し、抗告人の文書提出命令の申立を却下しているが、右は事実を誤認し法令の解釈を誤まつたものである。

(一) なるほど藤岡晋の証言調書には裁決諮問委員会は法令にもとづくものではなく慣例で運用しているのであるとの記載がある(12項)。

しかし、そもそもこの裁決諮問委員会はなぜ設けられたのか。

出入国管理令第二十四条の定める退去強制は、日本国からの追放でありいわば日本での生活自体を否定するものであるから「自由のはく奪」これにすぎるものはなく、その追放手続は「適正手続き」(憲法三十一条)にもとづいて行なわなければならないのは当然である。

入管令はこの要請にもとづき、入国審査官の審査(令四五条)、特別審理官の口頭審理(令四八条)、法務大臣への異議の申出(四十条)、と一見三審制にも似たような手続を定めている。審理をするのは全員入管局勤務の公務員であり「裁判の独立」はないのであるから三審制の実体はないと考えるが、それでも一見三審制の様にみえるし、入管側もこれを理由に適正手続きの要請をみたしていると主張しているのである。

しかも本来退去強制事由に当然該当する不法入国事案についてさえ、ほぼ七〇%が特別在留許可を得ている(前掲証言調書三五五項)。これだけ多くの特別在留を出すのに大臣の胸一つだけで出すことは在留権が自由のはく奪の最たるものであるだけに、できることではない。これに基準を設け、適正な審議とするために設けられたものが本委員会なのである。殆んど全ての異議申立事案再審嘆願事案は、この委員会にかけられこの委員会の結論どおりに大臣の裁決が出されているのである(前掲調書一五・二六項)。だからこそ、出入国管理令施行規則三六条は「法務大臣の裁決は別記第四一号様式の裁決書によつて行なうものとする」と定め、その別記第四一号様式中には「異議申出中につき昭和 年 月 日当省において審議を行つた結果、左の通り裁決する」と記しているのである。「審議」とは「じゆうぶんに討議すること」であり「よく取り調べて、集まつて相談すること」(広辞林)であり、大臣が一人で決めることを指すものではない。この第四一号様式の定める「審議」の実体が大体毎週木曜日に入国管理局長、審判課長、総務課長入国審査課長などの定例メンバーを集め(前調書一八項)、資料を集中して審議する裁決諮問委員会なのである。たとえ慣例としてであれ、現実に長年にわたり裁決諮問委員会が継続され、不法入国事案の七割もの特在許可につき、その審議を前提にして裁決書を出している以上、その審議をまつたく法令上の根拠を有しないとみなすことはできない。

(二) もう一点は本件文書提出命令は行政訴訟におけるものであり、まして人身の自由がかかわる事案であるから通常の民事訴訟の場合と同列に論ずるのは妥当でないという点である。

本件訴訟は抗告人の退去強制、つまり日本からの追放という行政処分の効力を争うものである。入国管理局が一人の人間の日本での在留を認めるべきか否かについて資料を収集し定例メンバーを集め裁決諮問委員会で「審議」したことは明白であるのに、そしてその審議結果が大臣の裁決をそのまま導びいたということが明白なのになぜその資料の提出を認めないのだろうか。

高松高裁昭和五〇年(行ス)第二号昭和五〇年七月一七日第二部決定(判例時報七八六号)は民訴法三一二条三号についてつぎのとおり判示している。

「右同条三号にいわゆる挙証者と所持者との間の法律関係について作成された文書とは、挙証者と文書の所持者との間の法律関係それ自体を記載した文書だけでなく、その法律関係に関係のある事項を記載した文書ないしはその法律関係の形成過程において作成された文書をも包含すると解すべきところこれと行政庁のなした行政処分の違法を主張してその取消を求める抗告訴訟に即してみれば、当該行政処分がなされるまでの所定の手続きの過程において作成された文書であつて右行政処分をするための前提資料となつた文書をも包括するものと解するのが相当である」。

抗告人が提出を求めているのは法務大臣が裁決をするまでの所定の手続きの過程において行政処分をするための前提資料にあたるから本件文書提出命令の申立は、認められるべきである。

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